RIBBONs2009
街の中の、揺れる舞台
野外劇場(台中)
街の中の、揺れる舞台
台中市(台湾)の市街地にある公園の、既設の野外劇場に、天蓋とバックステージ諸室などを新設することが、今回の設計であった。
2005年にグラーツの現代日本美術展(「知覚」展)で、「RIBBON」と名付けた空間構成を行った。
一枚のリボンが高く低くひらひらと連続しながら、あるところではブースの壁となり、また天蓋として観客を誘導する。
今回は当初より「RIBBON」が話題に出ていたこともあり、設計コンセプトはその方向で検討された。
第一案:切り抜きシェル
最初は、閉じた自由曲面体を別な自由曲面で切り抜いていって、ぎりぎりシェルとして成り立つような形態を提示した。
観客席が地上から掘り込まれているという敷地構成を生かし、道路側(ということは街)からはその頂部だけしか見えず、公園に入り回り込んで近づくにつれ、姿が現れてくるという意図だ。
しかし市は、街路からよく見えるかたち、を求めてきた。
第二案:RIBBON/パスが誘導するかたち
そこで、第二案として、互いに独立して展開する二本の軌道=path の間に、一枚の面を張る案を示した。
結果として、一枚のリボンが二本のパスに沿って舞い、幅や高さを変え、交差し、捻じれ閉じ開いて、天蓋となる。
これはグラーツのリボンの発展版であり、その直系の継承者にあたる。
ここで設計者が自分で「決める」のは、この二本のパスの軌跡だけである。そのパスから生成される面の形そのものは、設計者が決めるのではない。
互いに交錯し旋回するパスから、結果として面の輪舞が生まれる。その面の振る舞いが、要求される諸機能を満たすように、かつ、設計者が(潜在的に)望んでいる空間に近くなるように、パスを操作しながら、いわば「誘導」していくのだ。
この案の空間効果は歓迎されたが、現地で行うことが課せられていた構造設計の限界と、コスト上の課題が指摘された。
第三案:RIBBONs/波に揺れること
そこで第3案の、5枚の並行する波による「RIBBONs」が実施案となった。
個々のリボン自体は、スパン最大約60mのシンプルな3D曲面である。そこに若干のねじりを加え位相を少しずつ変えただけだ。
しかしその波形の符合と僅かな差が重なると、意外に大きな変化が生じる。
「限られたアイテムに加えた単純な操作が複雑多様な結果を生む」というのは、(今回は特別なプログラムは使っていないが)
「アルゴリズミック・デザイン」の基本原理のひとつである。
劇場とは、心沸き立つパフォーマンスや、感情を揺り動かす演奏の行われる場所だ。そこには、そうした「機能」に「共振する」形がふさわしい。
「揺れる波」は、これからここで何かが起きる、という「ワクワク感」を、励起してくれることだろう。
都市景観を取り込む、舞台
そしてRIBBONsは(要求諸機能を満たした上で)できるだけ開放的に、高く浮かばせた。そのためにバックステージ諸室も地下に掘り下げて低く抑えた。
各リボンの波間や下からは、背後のビル群が透けて見える。
曲面の波形の揺れと相まって、パノラマ状の都市景観全体が、舞台の背景のようになる。
これは、ビルの立ち並ぶ市街地にある野外劇場という環境条件の特徴を、空間構成に積極的に生かそうという意図である。
市街地の景観から切り離された独自の隔離世界をつくるのではなく、舞台の求心性を持ちながらも、同時に周辺環境を取り込み、環境に開かれた劇場としようとした。
ここで演じられるパフォーマンスが、限られた舞台という物理的な制約を脱して街に広がっていくような、そんな作用を「誘発」できれば、RIBBONsは天蓋であることを超えて、この劇場の機能を拡張する役割を、「演じる」ことになるだろう。
(共同設計:J.C.Yang Architect & Associates)
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