発生街区の都市 ID-II 1995
新しく計画された街の道は、直行や、せいぜい扇状程度の単調なパターンになってしまう。もしそれで十分なら、ひとはなぜ迷路の街を求めて徘徊するのであろう。
その疑問から、このプロジェクトは始まった。
もちろん、ただ、迷路のような街区を生み出すプログラムをつくろう、というのではない。
そもそも、良い道、とはなんであろう。
道の評価基準を決めること。
まずそこからである。
ここでは、評価基準を「アクセス性」と「おもしろさ」を合わせたもの、とした。
要するに、目的地に速く着き、そしてその過程を楽しめるような道を、良い道、としたのである。
アクセス性は主に自動車交通を対象にし、おもしろさは歩いた場合を考えている。
そして、このふたつの基準を、数式で設定してしまう。その詳細はここでは述べないが、交差点のタイプや、曲率の変化リズム等の組合せで、道に点数をつけてしまうのだ。
そしてその一連の作業を行なうプログラムをつくり、これを「評価」プログラムとする。
もとより、評価なるものが実際には困難なことは承知の上である。
「おもしろさ」なんて決められるわけがない?。
ここでは、評価基準そのものよりも、評価基準を選択した後の、評価システムの構築に関心がある。
ただし、評価する仕組みがあっても、評価対象の質が悪ければ、いい道は見つからない。
そこで次に、評価対象、つまり街路パターンを、「発生」させるプログラムをつくる。
街路を発生させるとは、道すなわち線の、接続の規則をつくることである。
道の接続のしかた、は、街全体から見れば部分的なことにすぎない。しかし、この、部分に過ぎないところの規則を少し変えるだけで、結果としての街区パターンは大きく変わるのだ。
そして、「発生」と「評価」という、このふたつのプログラムを連動させる。
すると、自動的に発生する街区が、次々と自動的に採点され、そのスコアがリストされる。
この競技に、既存の街も参加させてみる。
そこで上位と判定された実際の街と、評価の低かった街とを、自分の足で歩き回ってみることで、評価プログラムの有効性がある程度検証される。このユニットの担当者は、VTRを片手に、街を歩きまわった。
ちなみに、いくつかの既存の街を評価プログラムに入れてみたところ、その中ではサンジミニアーノの評価が高かった。
このプログラムで得られる街区は、(設定した評価基準のもとでは、)直行グリッドと同等のアクセス性を持ち、中世都市に匹敵するおもしろさを備えている、ということになる。