ALGORITHMIC DESIGN / INDUCTION DESIGN

つくばエクスプレス
柏の葉キャンパス駅 2004/5

2枚のスクリーン/科学と自然:

この駅は土木の架構を建築の外皮が包み込む構成で、建築架構を土木から独立させている。
これは従来の鉄道駅とは違う新しい架構方式で、ハイブリッド構造と呼ばれる。
この形式の結果、全体は土木架構から離れた2枚のスクリーンで挟まれた形式になる。

その2枚の自立スクリーンを、ここでは素直に立ち上げている。
この地域は自然科学系の大学都市であると同時に自然公園エリアでもあることが駅名にも表されている。
それなら、ということで、科学と自然というふたつの「お題」を、2枚のスクリーン上に重ね合わせようとした。
そのスクリーンに再現されるのは、流れ、である。

乱流のデザイン/いままでの方法:

流れにはふたつの種類がある。ひとつは「層流」、もうひとつは「乱流」だ。
そこで、駅の二枚のスクリーンのひとつは乱流、もう一枚は層流と設定した。
(ここでの乱流は物理学的な意味ではなく比喩上の意味で、渦は発生させていない)
層流のほうは文字通り整ったパターンであるが、乱流は、単純な規則性のない
3次元にうねる自由曲面である。
こうした曲面をつくるには、ふつう、ふたつの方法がある。

ひとつは「試行錯誤」方式の手作業だ。
あれこれスタディをしながら、いいと思うかたちをつくること。そのために手で粘土をこねても画面上でCGソフトを動かしても、どちらも原理は同じである。試行錯誤には変わりない。
もうひとつは、外部にある法則を使うことだ。
たとえばカップのコーヒーをスプーンでかき混ぜてそのときできる波のかたちをそのまま取り込む。かき混ぜる代わりに物理シミュレーションをPC上で行っても、同じことである。これは自然をまねる「自然模擬」方式と呼べる。

このふたつとも、昔からあるやりかただ。
どちらも、コンピュータを使うか使わないかに本質的な違いはない。
使っても使わなくても、方法の仕組みは同じである。試行錯誤方式も自然模擬も、有効な方法ではあるが、有効性に限界がある。
では、「手」ではなく、「まね」でもなく、「いい波」を得る方法はないか。

発生設計/「INDUCTION DESIGN」第Ⅳ期: ID-Ⅳ :世界初の、AIで生成した建築

そこで、ここでは、継続研究をしている「INDUCTION DESIGN」の次の過程を開発しようとした。(プログラムは完成していない)
それは「なにがいいかを決めないで、いいものを得る」というマジックのような方法である。
そのしくみは、次のようなプロセスをとる。

1- 設計者が複数のスケッチを描き、それに自己採点をしてプログラムに渡す。
2- プログラムはそこから設計者の意図を推測してより高い評価を得られる
(と予想される)スケッチを提示する。
3- それに設計者がまた採点をしてプログラムに渡す。
4- これを繰り返すと、いつか「いいもの」が得られる。

こう記すと簡単そうだが、これを有効にこなすプログラムの開発は容易ではない。
このプログラムの鍵は、何がいいものなのか、という定義をしないことにある
。「いいもの、の定義はできないが、いいものは見分けられる」、という状態のもとで、いいもの、をつくりだす、という点に、新しさがある。

このしくみは、「INDUCTION DESIGN」の世界初の実施版である「地下鉄大江戸線飯田橋駅」の「ウエブ フレーム」でも試みたが、その部分のプログラムは完全ではなかった
。今回は開発の目的を、この部分に絞っている。

たとえば、学生の課題を見せられて、いいか悪いかはすぐ分かる。しかし、では、「いいものとはどういうものですか」、と聞かれると、「いいものとはこういうことだよ」、とはっきり答えるのは難しい。

いいもの、の条件を並べることはできるが、並べた条件を守ってもいいものになるとは限らない。「いいと思えるものが、いいものなのだ」、と言うしかない。
「これがいいものだ」、という定義ができるなら、それを生み出すプログラムはつくれるが、なにがいいのかがあいまいなままでは、プログラムはできない。

そこで、「いいものの定義はできない」、という事実から始まって、できるための方法を得よう、とするのがこのプログラムである。

まず、あいまいなものを解く、という点から、ニューラルネットとGAを用いたプログラムをつくった。これは経済産業省のITプロジェクト「未踏ソフトウエア開発事業」の一環として行われた。
その能力はまだ十分ではなかったので、さらに能力の高いものをAIを機軸にして現在も開発中である。

AIによる設計については:Altect → pBM:project Beautiful Mind

全体の不在/部分の規則が全体をつくる:

波の曲面は、グラフィック処理ではなく実際の立体とした。
5M×約2MのGRCパネルをユニットとし、5M@の構造体に直接取り付けた。
内壁にも仕上げはなく、一枚で外壁と内壁になる。外壁面には自浄性塗装が施される。

このスクリーンの周囲は立ち落とされたように扱われている。これはこの面はさらに広がって行くことを示している。
どこまでも広がる大きな流体面を、たまたま、あるサイズで四角く切り取ったものが、このスクリーンとなったという設定。
その意味で、ここには部分を生成する法則はあるが、全体を規定する規則はない。
個々の波を生む部分の規則だけで、全体が生成されている。 ここに、部分はあるが、全体はない。

規則的でない規則/均一カーテンウオールではなく

そして、ここにはカーテンウオールのような規則性はない。
しかし、ランダムでもない。
多様性を許容した規則性。それは矛盾ではなく、実行可能なことが示される。
GRCは型から複製される。コスト上、型の数は限られるため、ユニットのバリエーション数には限界がある。
また当然ながら、隣接するユニットは立体的に連続した形状でなければならず、適当に組み合わせを変えて並べるわけにはいかない。

限られたバリエーションで繰り返しにならないような変化を生むため、反転して接続できる回帰性のある形状を使い、組み合わせのシミュレーションが繰り返された。(この過程もプログラム化しようとしたが、間に合っていない)
ここでは、有限個の「パネル型」と有限個の「開口型」の掛け算で、繰り返しの見つからない多様性を得ている。

視覚的触覚/タクタイル

その壁面には、つやつやと濡れたような感触を求めた。
見ているだけで触っているような感覚を持つこと。生物の肌のような触感。

見るということは、眼で相手を触ることかもしれない。
プログラムではすくいとれない、手と眼の関係。