3つの駅を通じて             2005

     
     

建築:

     

流れの3態

     
「新水俣駅」、そして「つくばエクスプレス2駅」という3つの建築は、いずれも「流れ」をテーマにするという共通項があり、同時に相違点もあります。
「新水俣駅」では、ユニットピースが流れをつくっていました。
「柏の葉キャンパス駅」では、流れそのものがスクリーンです。
「柏たなか駅」では、媒体となる流れの中に置かれた物体が、建築となっています。
  3つの駅を通じて 渡辺 誠/アーキテクツ オフィス  
       

部分と全体:建築から

     
これを、部分と全体の関係でみても、同様に相似点と相違点があります。
「新水俣駅」ではたくさんの部分が関係して全体を生成しています。
これに対して「柏たなか駅」では一枚の皮膜が全体となっていて、部分がありません。
「柏の葉キャンパス駅」では部分が広がって結果として全体を成しています。
逆に、全体はないのです。
     
       

 

街:

   

駅から街へ/誰が街をつくるのか

     

ところで、駅は駅だけでできているのではありません。
前述のように、駅の前には広場があり道路があり、街があります。
駅だけよくできても、周りがそれに伴わなければ、駅の価値は生きてきません。
駅単体の設計コンセプトに「部分と全体」の関係があったように、駅と街との間でも、部分と全体の関係を解決することが必要です。
ところが、日本ではこれまで、駅とその周囲はばらばらにつくられることが多かったのではないでしょうか。


その理由のひとつは、それぞれの建設主体が違うためでしょう。
たとえば「新水俣駅」でも、駅は鉄道・運輸機構とJR九州、駅前広場と交通ターミナルは国土交通省と水俣市、在来線駅は第三セクターの肥薩おれんじ鉄道、駐車場や跨線橋は市と、それぞれの建設や運営主体が別々です。
さらに、駅前の民間敷地をどう利用し、どんなものをつくる/つくらないのかは、街づくりにとってとても重要です。
それぞれの主体は自分の担当部分を誠意を持って設計し工事をしても、できあがってみたら調和していない、ということになりかねません。
かといって、全体の設計を調整するコーディネータはいません。
部分あれども全体なし、という具合なのです。


そこで、駅の設計者として、それぞれの主体に調整を働きかけました。
(そうでないと、誰もその役をしないので―)
各建設主体に、デザインの統合の重要性を説明し、具体的な方策を提示し続けていると、やがて理解が生まれ、なんとか全体を調整する方向で進むことができました。

駅広の舗装やバスシェルター、肥薩おれんじ鉄道のホームなど、国土交通省や水俣市の協力のもと、それぞれの主体と話しあいながら、デザインディレクションを行っています。
今後、公共サイドだけでなく、民間の敷地にもこうした街づくりへの意識が共通理解となることを願っています。

そのままではそれぞれが別々に進んでしまうという構造は、実は、駅の外にだけに限ったことではありません。
単体の駅の設計でも、建築と照明、通信機器、サインなどそれぞれの管轄は分離独立していて、それらを統合してデザインすることはなかなか難しい状況です。
統合的な成果を得るには、やはり、だれか、全体を統合する役割が必要なのではないでしょうか。

 

3つの駅を通じて 渡辺 誠/アーキテクツ オフィス

 

 

3つの駅を通じて 渡辺 誠/アーキテクツ オフィス

 
     

イメージ/全体をまとめるもの

     

こうした状況は、「つくばエクスプレス」の2駅でも同様です。
この2駅では、駅前広場にとどまらず、駅を中心とした新しい街をつくるのですから、よりいっそう全体の統合が必要でしょう。
そこで、柏市と各事業者を含めた街づくり会議を2年にわたって継続していますが、個別な技術論が多く、進展はゆっくりです。
街がなんらかの統合性を持つためには、どういう街にするのか、そのイメージがないと、個別な調整をしても方向が定まりません。
そこで街のイメージをつくるため、事業者と住民を含めて議論する場をもうけることを市に提案しています。
街全体をオープンキャンパスと考える構想も、この過程で委員から提案されたひとつです。

こうした働きかけは、現在の枠組みの中ではボランティアワークになってしまいます。
しかし、誰かが行わなければ統合性のある駅周辺と街をつくることはできません。
こうした都市インフラの今後の整備に際しては、個別な働きかけやボランテイアでなく、コーディネーションワークを初めからプロジェクトの中に位置づけることが望まれます。
マスターアーキテクト方式もその選択肢のひとつでしょうし、それひとつだけではなく、方法は他にも考えられます。
そうした、駅を超えた統合の意義を示す、ひとつの例に、これらの3駅がなることを期待しています。

  3つの駅を通じて 渡辺 誠/アーキテクツ オフィス  
       

部分と全体/街への方法

     

そのとき、コーディネーションの具体的な方法が課題になります。
現在の日本のように全体を統合する仕組みが希薄だと、統合してこそ生まれる街の魅力は得られません。
しかしまた一方で、全体がひとつの方向に統一されていないということは、それぞれの部分の活力を引き出せるという長所もあるでしょう。
調和が大事と言って、ただ上からマスタープランで強力に規制する方法では、整った街はできても、自由を抑えて活力を削ぐことになりかねません。

抑圧でなく、かといって乱雑でもない、そういうあたらしいタイプの統合性を得るには、やはり部分と全体の関係に新たな方法を導入するしかないでしょう。
「INDUCTION DESIGN/誘導都市」は、そうした目的のもと、都市を対象にして展開される研究プロジェクトなのです。