3つの流れ/3つの新駅

九州新幹線 新水俣駅 2004

以下は、「新水俣駅」の設計主旨についての「少し専門的な説明」です。
「一般の方への説明」は、メニューに戻って選択してください。

閉じているのに開いていること:

建築はふつう、壁で閉じられていて、入り口のドアを開けて中に入ります。
しかし、駅にはドアはありません。プラットホームでは車両が走り抜けます。
内部と外部はいつも、連続しているのです。
ではと言って、まったくオープンな空間というわけでもありません。
ホームは、雨を避け風を防ぎ、陽差しをよけ、列車の通過音を外に広げないことが要求されます。
開いているようで閉じている、閉じているようで、開放されているのです。
これは、ふつうの建築のような閉じたパッケージとは違う、特異な空間です。
そういう、駅という空間の性格を、もっと伸ばしたらどうか。ここにしかないことを、育てたらどうか、そう思ったことから設計は始まりました。

滑走するピース/運動しつづけること:

この駅の屋根と壁に、区別はありません。
屋根も壁も、連続した矩形のユニットピースの集まりでできています。
まず最初に、いくつものユニットピースが滑走している状態を想定しました。
つぎに、その滑走のある瞬間を凍結します。
そしてそのときの雨や風の吹き込み具合、日差しや視界や音の程度、そして形態と構造の状態を確認します。雨や風や音には、多くの厳しい条件が課されているからです。
この過程を繰り返して、必要な条件をかなえる状態のものを選びます。これが設計となります。

これは、ある「状態」を凍結したもので、凍結を溶けば、また次の状態に移行していくはずです。
それは、一枚の完成予想図に従ってつくられた完結し固定された建築、ではない、「運動の過程」なのです。
これはデザインの概念上の比喩というだけではありません。
実際に、プラットホームは開業後、将来の延長が予定されています。
そのため、駅広側のユニットピースと全体の構造体は延長部まで用意してあります。
竣工時にピースのない部分にも、延長時にはピースが展開するはずです。
解凍後の「運動」は、バーチャルな思考実験の世界だけでなく、リアルワールドで実際に起きることなのです。

光のさざなみ/陽の動き:

走行するピースは、それぞれの面の角度が同じでありません。
その角度の差は、光の反射の違いを生みます。
さまざまな角度のピースは、時間により季節により、太陽の光の反射面が変わります。
駅に近づくに従って、また時刻によって、変化する光のきらめききが目に映るでしょう。
この、日時計のような光の動きも、意図された「運動」のひとつです。
またこれは、全長220mに渡って北に面する駅に、明るさを与えるためでもあります。
さらに、変化する輝きは、水俣市の面する美しい八代海のさざなみを想起させるかもしれません。

木漏れ日の下で/ユニットピースの構成:

ひとつのユニットは幅2m長さ10mの大型ピースです。
構造架構は滑走するユニットピースを一時的にアンカーする、もやい紐のような存在です。
ユニットはこの構造に直結されていて、下地はありません。
ユニットピースの配列は上述のようなさまざまな条件のバランスの結果ですが、同時に、駅広から見れば全体が金属の塊のように見え、プラットホームに立てば山々の緑が透けて見える、二面性を持つように調整されています。
さらに、雨を上から順に受けて駅広には落とさないようにも考えられています。

全体は、そうした様々な「条件」をかなえた、一瞬の姿なのです。
そのピースの間で見え隠れする空からの光は、ホームの床に樹々の木漏れ日のような光を落としています。

部分を整理すること/全体との呼応:

プラットホームの照明は、通常の蛍光灯を吊る方式ではなく、HIDの点光源を柱に配列しています。
これは、「外のような中のような」というホームの特性を補強する、街路のような扱いとしたためです。安定器や配管は柱の中に仕込み、外部に夾雑物の出ないすっきりした配置としました。
照明にかぎらず、駅にはたくさんの通信・信号・電気・サインの端末や配管が、後付けで設置されます。それらは個々別々の既成品類で、取り付け方もアドホック的なものが標準です。
通常の建築と違い、駅では設計者にそれらを調整する役割が与えられていないので、そのままでは「ちらかった」印象になりかねません。

「新水俣駅」では、それらをできるかぎり調整しシンプルな処理にできるよう、それぞれの設置主体に働きかけ、一定の理解と協力を得られたため、従来の駅よりは「整理」することができました。
プラットホームのスピーカーも従来の吊りではなく、ホーム可動柵の中に組み込んでシンプルに処理しています。
ITVカメラも既成品のパッケージでなく、単純な円筒形にしています。

コンコースの天井材は、在来線特急の天井材と同型のアルミスパンドレルとし、車両デザインとのコラボレーションの一端としています。
コンコースの照明は、蛍光灯をずらしながら束ねた「クラスター照明」として、駅のコンセプトと呼応しながら、ローコストで効果をあげました。
ベンチも、ウイング状の木製ピースの集合体で、駅のコンセプトと関係するデザインとしています。
クラスター照明やベンチは駅の建築の一部であると同時に、滑走するピースの「別バージョン」であり、それは建築全体の「模型」でもあるといえます。

土木とのコラボレーション/駅と駅広:

駅は建築と土木の両方で成り立っています。
土木と建築は関係があまり緊密ではないことが多いのですが、つくるものはひとつなのですから当初から両者が協力して進めた方がよいことは明らかです。
地下鉄の「飯田橋駅」では、地下という土木架構の中の空間でもあり、この土木とのコラボレーションを求めました。

「新水俣駅」は地上駅なので「飯田橋駅」よりは通常の建築に近いのですが、今度は駅の外に駅前広場(駅広と呼ばれます)という土木の世界が広がっています。
駅と駅広は一体として機能するのですが、それぞれはふつう、あまり関係なく別のしくみでつくられているのです。

そこで、駅と駅広の関係に、ある程度の統合性を持たせるように働きかけをして、協力を得ることができました。すべてを統一する必要はもちろんありませんが、相互に呼応関係を持たせることは、駅前空間全体のバランスのために大切です。
このあたりは別項の「三つの駅を通じて」でも記しています。

「状態」としての建築:

肥薩おれんじ鉄道
新水俣駅(在来線)
デザインディレクション

この建築は、ひとつの大きな箱や、連続した一枚の皮膜ではなく、独立した要素単位の集合で全体ができています。
ひとつひとつは単純な部分が、数多く集まり、それぞれが半自律したルールで動いていくなかで、ある条件を満たした関係が生まれたとき、それが建築となります。
そういう、「状態としての建築」を生成しようとしました。
この考え方は、(ここではコンピュータプログラムは開発していませんが)、条件からの自律生成を行う「INDUCTION DESIGN/誘導都市」の方法に関係しています。