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K-MUSEUM        1996

     
       
      みえないものを、見るために
       
     
     

イントロダクション:見えない未来/いまだ荒野としての都市

       
 

K-MUSEUM 渡辺 誠/アーキテクツ オフィス
上:模型
下:写真

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K-MUSEUM 渡辺 誠/アーキテクツ オフィス
CG

 

 

臨海副都心は、東京湾に浮かぶ新しい都市である。
東京が江戸と呼ばれていた17世紀以来、東京は海を都市化することで成長してきた。
埋め立てによる都市の拡張。フロンティアと呼ばれるこの地は、東京の、20世紀最後の拡張場所となった。
しかし、都市の動態は経済情勢が決定する。
バブルと呼ばれた好況の80年代に着工された「フロンティア」は、インフラストラクチュアをほぼ完成させ上部構造の建設に移ろうとしたその矢先、90年代後半になって、第二次大戦後最大と言われる不況に見舞われた。予定された博覧会は中止され、進出企業はオフィスの着工を見合わせた。巨大なビジネスゾーンを予定していた新都市の中央部は、広大な空き地として残されたのだった。
そして今また、この街は動き出そうとしている。
波は繰り返すから波なのだ。都市の生命は永い。いっときの状況ですべてを評価することはできない。

そんな時代に、このミュージアムは、その都市の、まさに中央部に出現することとなった。それが意図だったのかどうかには、関係なく。
この都市の地下には巨大な共同溝が埋設されている。原子力発電所一基分に匹敵する建設費を投じてつくられた、エネルギーと情報と集塵システムの、日本最大の共同溝システム。この建築は、そのための展示施設である。
敷地の周囲は新しい街の中心となるはずだったところだが、今は荒野のような空き地である。そこは都心と呼ばれているのだが、郊外よりもっと未開の地のように見える。
参照すべき街並もなく、継承すべき文化もなく、尊重すべき自然もない、そして将来の予測も成り立たない、言わば無のエリア。そこに出現する建築には、いったい何が求められるのだろうか。

小さなこの建築ひとつでは、その機能から言っても、多くの人々を集める賑わいをつくり出すことはできない。この建築の役割は、量的な都市性ではなく、質的な都市性を果たすことにある。見えない都市を「見える」ようにする、モデルとなること。自分自身が、都市というものの、「模型」であること。

では、都市性として何をとりだすのか。

       
     

第一展示室:光/単純な、多様性

     
 

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都市の特性のひとつは、「多様性」にある。
ひとつの目的のために、複数のルートが選択できること。
ひとつの目的を遂行する過程で、目的以外の作用が混在してくること。
ひとつの基準で選択すると、必ずその基準には合わないヒトやモノや現象が現れること。
たくさんの要素が関係し合い絡み合うという複合性が、一筋縄ではいかない都市の性格をつくりだす。単純な単位の組合せが、複雑な全体を生む。そうした都市の構造を、この建築はモデル化して体現している。

金属のユニットは、単純な抽象形態を基本にしているが、それが組み合わさって多様性のある全体となる。それぞれのテクスチュアには何種類かの違いがあり、その組合せも多様性を生む。その際の手がかりは、「光」である。
光の透過率と反射率、それに波長が少し異なるだけで、結果は大きく変わる。
反射面の角度の差が光の方向を偏向させ、太陽の動きを増幅して描きだし、時間によって知覚される形態が変化する。

制限された素材と形態の単純な組合せが、光を媒介にして複雑な全体を生成する。

       
   

第二展示室:時間/滑走

       
 

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この建築の形態は強い方向性を持っている。
基壇となる地形とは、部分的にだけ接している。それが、滑走を終えて飛翔する瞬間か、それとも長い飛行の果ての、着地する一瞬か、定かではないが、モードの遷移する過程の、きわめてわずかな静止の時間であることは確かだ。作動する転換モード。
都市とは、永遠の「転換モード」にある存在なのだという認識が、そこにある。

その動きが、都市を賦活する。都市が生命化される。

       
   

第三展示室:材料/開発

       
 

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この建築では新開発の素材が数多く使われている。
外装材のアルミおよびステンレスパネルは、三次元立体部を3ミリ幅の細い目地であらかじめ一体化した上で取り付けている。
内装では、アルミハニカムコアを二枚のアクリル板で挟んだ材料を開発した。
アクリハニカムと名付けたこの材の背後に照明を配し、銀色のコアのきらめきを伝えている。
内部の自立トイレブースは、ドアや洗面器や排気塔等も含めて人工大理石で一体整形した。
トップライトの曲面体は、長径5Mの半透明なFRPの一体整形による。
これは都市に不可欠の、「やわらかいなにか」でもある。
カーボーンファイバーによる風にそよぐ環境彫刻「ファイバーウエイブ」は、普通は見えない「風」を、見えるようにする装置である。

単一な素材ではなく、複合された材料でつくられた建築。都市もそうしてできている。

       
   

第四展示室:展示/見えないもの

       
 

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展示は、模型、見本にデジタルメディアの併用で、空間の中央部に線形に並んでいる。
展示内容のすべてをデジタル化して室内にはスクリーンだけが吊られている、という構想を提示したが、実現しなかった。やはり、モノを置きたいという性向は根強い。
この建築は都市のインフラストラクチュアへの理解を深めるという特定の目的を持っているのだから、一般のギャラリーのようにフレキシブルな展示空間である必要はない。ユニバーサルスペースではないのだ。キャラクターは明確にしていい。
共同溝本体は見学コースで見ることができる。本物はそこにあり、ここにはない。
だから、極端なことを言えば、この建築を見ることが、「見えない」都市の「構造」について考える契機となれば、この建築は課された「展示」機能を果たしたことになる。

多様性、選択性、対称性、交換性、関係性、光、そして方向性。そうした「見えない」ものが、都市の(共同溝とはまた別の)「インフラストラクチュア」であることが伝われば、この建築の役割は満たされる。

       
   

イクジット:展示/見えるもの

       
 

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上:写真
下:模型
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というわけで、結局、この建築自体が、「展示品」なのです。
ひとつしかない、実物としての建築。ただひとつの、この場所。
共同溝本体という実物も、その固有の場所にあるわけで、展示「建築」としての価値は、この、唯一無二性に帰するのではないでしょうか。
空間と時間と気分の、ここでしか味わえない、代替不可能な、非疑似体験。

それ以外の「展示」は、すべてソフトウエアに変換することができます。そしてソフトウエアは(人的なサポートも含めて)場所に拘束されません。どこにでも配信可能で、どこにいても手に入れられる。ひとつの「箱」は不要です。
ということは、逆に、「自立した」機能のない箱=建築に、存在意義はない、ということになります。
そしてまた、この、唯一の「実物」であるはずの建築自体が、都市の「模型」である、という仕組み。

本物はつくりもの、つくりものは本物。

さて、こうした、「本物」と「模型」と「ソフトウエア」を巡る、「見える/見えない」、の多重構造が、展示「施設」ということになります。
施設、というより、展示「系」、とでも呼んだほうがいい。
百聞は一見にしかず?、なにが実物でどれが模型なのか、見えないものが果たして見えてくるかどうか、よく晴れた日の午後、できれば少し風のある日に、ご自分の目で、確かめていただければ、幸いです。

       
 

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movie: parts

   
 

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movie: scene

   
       
 

   
K-MUSEUM  名称:「共同溝展示室」
現在、内部は一般公開されていませんが、外部を見ることは可能です。
JR&銀座線の新橋駅から、新交通ゆりかもめの 国際展示場正門駅下車、 歩6分です。